森田童子に・・・!

 最近、某動画サイトで、森田童子の「ぼくたちの失敗」という歌の弾き語り配信を聞いた。「♬ストーブ代わりの電熱器♬」というフレーズはいかにも1960~70年代を思い起こさせる。私の幼少期の記憶を紐解くならば、それはそれほど遠いものではない。森田童子そのものの名前は私自身も知ってはいたのだ。テレビやラジオでのアルバムの宣伝が為されていたことも記憶している。ただ、彼女本人がマスコミに露出している記憶はほとんどない。そこで、懐かしむかのように、新たに探索するかのように、森田童子に関してネットで検索してみた。すると、レコード化された曲だけでも30曲以上あった。アルバムは7枚も出している。それらを聞いてみると初めて森田童子という存在の大きさに改めて気づかざるを得なかった。しかも、彼女はプライベートの一切を明かしてはいなかったのだ。わかっているのは生誕日と逝去日のみである。それでも、動画サイト等をみると驚くほどにその情報は多い。ラジオでのライブを録音したもの、出演したラジオ番組を録音したもの、ライブ演奏の様子を録画したものなど、40年もさかのぼるにもかかわらず、その豊富さに驚嘆させられる。まるで最近までどこかでライブ活動をしていたかのようである。それだけ、単なるファンではすまないようなつながりをもった者たちが少なくないということなのだろう。

 生誕は1953年1月15日。否定された戦前と試行錯誤の戦後がかき混ぜられていく中で、森田童子は生まれた。そして、そのカオスは激動の時代をもたらす。全共闘世代である。当時、社会的にはそれほど大多数ではなかったはずの学生達の闘争は、学生運動にとどまらず様々な軌跡を残していった。

 さまざまな政治的勢力により進められていた背景は明らかにあるが、’68~’69の学園闘争は、それらの政治勢力の予想をはるかに上回る拡大を見せた。日本大学では、使途不明金など、大学の経営側の不祥事をきっかけとして燃え上がった。そして全共闘の日大闘争は大衆団交へと昇りつめ、大学側への質問と要望を突き付けていった。しかし、それらの成果に対し、当時の内閣総理大臣・佐藤栄作は「大衆団交は人民裁判であり、この結果は認められない」の一言で全て帳消しにする。それまで「スト派学生」とマスコミ等での名称になっていたが、総理発言の後、「急進派学生」、あるいは現在にまで継承されている「過激派」という名前に取って代わった。言い換えるならば、社会的不正に対して告発をする学生達という存在から、反社会的テロリストの扱いへの転化であった。やがて、学生の大衆勢力は政治性のない組織の弱さを痛感し、政治的基軸を求め始める。既成の政治集団に参加する者、新たに構築を試みる者らがあった。そして内ゲバが発生してしまう。左翼内ゲバルト(暴力)の略で内ゲバである。これは以前から存在してはいたが、衝動的小競り合いのレベルのものであったのだ。しかし、政治的存在の要求の中で、イデオロギーをもとにした衝突が激化していく。75年をピークに殺人に及ぶ数も増加した。かかる中で、大衆は未来への絶望から、自殺するものが後を絶たなかった。

 学園闘争とは別の流れで、フォークソングの歌い手たちも活発に社会運動に参加した時代でもあった。もともと、社会矛盾を訴えていく性質を持っていたフォークソングだったのだが、学園紛争の高揚に影響を受けて、ラディカルに社会運動として展開していった。1969年6月28日には、新宿駅西口公園において反戦フォーク集会が大規模に行われ、機動隊と激突した。これは後に「新宿フォークゲリラ」と呼ばれた。

 当時、森田童子は16歳であったが、フォークソングのシンガーソングライターとしては活動していた可能性があり、その激動の中で影響を受けていた可能性が高い。『地平線』、『グリーン大佐』など彼女の創作にも反戦ソングの色合いがつよく、高校中退という彼女の経歴からすると参加していた可能性も皆無ではない。

 フォークソングの集団も、社会的圧迫によって、ラディカルな運動に対して消極的になっていく。フォークソングに内ゲバこそ存在しなかっただろうが、左翼陣営における一体感の喪失は彼らにも大きく影響を及ぼし、フォークソングが本来内包する社会運動性の否定をもたらしたのだ。フォークソングの担い手たちの中にも、かかる風潮に絶望して自殺するものは少なくなかったと推測できる。

 森田童子のフォークシンガーとしてのデビューは1973年で、友人の自殺がきっかけといわれている。彼女がフォークソングの反戦的存在にこだわり続けようとした理由は、自殺した友人の無念を晴らすという志が、背景にあったといえるのかもしれない。

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=ovUwfIr6wdU

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