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2019年

8月

31日

森田童子に・・・!

 最近、某動画サイトで、森田童子の「ぼくたちの失敗」という歌の弾き語り配信を聞いた。「♬ストーブ代わりの電熱器♬」というフレーズはいかにも1960~70年代を思い起こさせる。私の幼少期の記憶を紐解くならば、それはそれほど遠いものではない。森田童子そのものの名前は私自身も知ってはいたのだ。テレビやラジオでのアルバムの宣伝が為されていたことも記憶している。ただ、彼女本人がマスコミに露出している記憶はほとんどない。そこで、懐かしむかのように、新たに探索するかのように、森田童子に関してネットで検索してみた。すると、レコード化された曲だけでも30曲以上あった。アルバムは7枚も出している。それらを聞いてみると初めて森田童子という存在の大きさに改めて気づかざるを得なかった。しかも、彼女はプライベートの一切を明かしてはいなかったのだ。わかっているのは生誕日と逝去日のみである。それでも、動画サイト等をみると驚くほどにその情報は多い。ラジオでのライブを録音したもの、出演したラジオ番組を録音したもの、ライブ演奏の様子を録画したものなど、40年もさかのぼるにもかかわらず、その豊富さに驚嘆させられる。まるで最近までどこかでライブ活動をしていたかのようである。それだけ、単なるファンではすまないようなつながりをもった者たちが少なくないということなのだろう。

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2019年

1月

06日

訪問者のドアノブ/惟実ショートショート第二弾

 黒く塗りこめられた木製の一枚扉が開く。その瞬間、カラオケの音響が静寂を破り、その音に押し出されるように二人の男が出てくる。普通に歩くように振舞っているが、足元はおぼつかない。泥酔とは言わないまでもかなり飲んでいるのだろう。

 

「ありがとうございました」

 

 客を見送りに来たらしい女性が声をかける。髪はボブカットのショート、肩パットの入ったピンクのスーツを無難に着こなしている。スカートはスーツらしからぬ短さだが、不思議と違和感が無く、むしろノーブルな雰囲気を醸し出している。

 

「んじゃ また来るよ」

 

 二人が乗ったタクシーを見送った後、扉の中に戻る。しばらくして、最後の客が帰っていく。深夜0時半を過ぎた。先ほどまでの大音量のカラオケは鳴りを潜め、静寂がのぞき込む中でグラスを洗う音が響いている。従業員の二人が片づけをして、道子は集計を急いでいた。

 

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2018年

11月

13日

和解(Reconciliation)惟実ショートショート第一弾

 それは離婚届を提出しに行った時だった。

 私は案内で提出窓口を尋ねてそこに辿(たど)り着いた。窓口に見た顔は、少し老けているように思えたが、すぐに彼女だとわかった。そのいで立ちは紺のスーツで、肩までかからない髪が活発さをあらわしながらも、額の白さが聡明さをも醸(かもし)し出している。スカートではなくスラックスであったこともそれをより強調しているかのようであった。最後に会ってから既に20年は経過している。私の名前も覚えていないだろうし、私もだいぶ変わったはずである。だから、見て気づくことは無いだろうと思いながら、書類を提出する。

 

「お願いします」

 

「はい、確認しますので、少々お待ちください」

 

 彼女は書類の離婚届の文字を見て、ほんの一瞬だけ私の顔に目を向けた。目が合ったとはいえないほどの一瞬であった。やはり気づいていないだろうと思った。

 

「北野さん、それではお預かりいたします」

 

 その瞬間、突然私の中にある衝動が浮かんできた。久しぶりの再会を彼女に知らしめてもいいのではないか、という衝動である。そして、それはそう思い終わる前に既に行動を現していた。

 

「変わらないね」

 

 私の後ろにも列が何人か並んでいる。そう言ったところで捌(さば)くことに気を取られて、私の問いかけに気付く暇もないだろうと思っていた。

 

「先輩もね」

 

 しかし、彼女は忙しさに追いつこうと手を動かしながらも、まるで冷静に、普通の会話の声のように応えてきた。気付かれることもないだろうと思いながら仕掛けた問いかけだったが、驚かされたのは私の方だった。彼女は気づいていたのだ。あの頃と全く同じ声だった。

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