連載小説

『闘いの父』第三章・切断 は完了いたしましたので、

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2018年

7月

15日

Ⅷ.  帰 還 (闘いの父第三章「切断」)

 父は抜糸の後、しばらく経過観察という形で入院していた。数日後の午前中、仕事中の私に電話がかかる。

「本日の午後、Aさんが退院されます」

「え、今日ですか、緊急性が無いと急には休めないのですが」

「あ、結構ですよ。お父様を移動するだけですから、またおやすみの日にでも、面会にいらしてください」

「どうもすいません。よろしくお願いします。いつも父をありがとうございます」

 

 回復という形の退院なので、面倒なことはそれ程はない。父も毎度のことなので承知している。私の面会は次の休日でも差し支えないだろう。私は休日の度、必ず面会をすることを心掛けた。父の状況はそれほどの変化を見せなかったが、いつも眠そうにしていて、会話することはめっきり減ってしまったが、とりあえずは小康状態を保っていた。

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2018年

7月

11日

Ⅶ.  回 復 (闘いの父第三章「切断」)

 ストレッチャーに載せられて父が手術室を出てきたのは、執刀医が立ち去ってから30分ほど後のことであった。挿管されているのはわかったが、すぐに、エレベーターに消えていったので、それ以外のことは確認すらできなかった。私は階段を上って整形外科病棟に戻った。父はナースセンターの隣の回復室に入っていた。呼吸もしっかりしているらしく、気管に挿れられた管には何も繋がれてはいなかった。まだ父は麻酔が覚めないため、症状の急変に備えて管は抜かないでおくのだろう。執刀医の危惧は回復の状態についてだけだったので、手術は成功したということなのだろう。急変しない限り父の状態は心配ない。肺炎さえ治まっていれば父に問題はないはずなのだ。今夜は管を抜くことは無いだろうから、誤嚥することもほぼ有り得ない。挿管されているため痰の吸引も騒々しい処置ではなくなっている。明日父が目を覚ましているならそれで何の問題もないのである。

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2018年

6月

04日

Ⅵ.切断手術 (闘いの父第三章「切断」)

 手術当日、私は朝から父の病室に入った。5番目の手術であるから、その開始は午後もかなり遅い時間になるのだろう。外科手術としては単なる切断であるから、非常に簡単な部類に入るものだろう。ゆえに最後の回になるのは当然ともいえるのだ。未だに私は父に切断手術のことを言えないでいた。周囲の状況からそうなることは父自身が推察するだろうことは予測できた。しかし、それを言い出せない私は明らかに父に甘えている。偉そうに世話をしてきたつもりではあるが、自らの幼稚さを痛感しないではいられない。いざとなれば親の存在そのものに委ねるしかないのである。

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