この映画はこんなうわさ話からスタートします。
―いい娘だな!
―ユカっていうのよ
―歳は?
―18だったかしら
―横浜の生まれか?
―そうよ いい娘よ とっても!
―パトロンがいるの!
―へ~え!
―おじいちゃんの!
―若いのもいるわ、恋人よ!
―浮気か?
―でもとってもいい子よ
―感じがいいねェ
―すごくいいわ 明るくて親切よ!
―寝たいね あの子と!
―平気よ 寝るわよ誰とでも
―ホントか?
―ホント! すごいサービスだって
―男を喜ばせるのが最大の喜びなんだって 人生の目的!
―そんなわけねェ
―本当よ!
―色気ちがいか?
―そんなんじゃないわよ!
―だって好きなんだろ?
―素直なのよ!
―純なのよ!
―でもキスはだめよ
―え!
―キスさせないの?
―伝説でしょ?
―本当だって!
―口中梅毒か?
―いや~ね ハハッハhh!
―清潔よ あの娘!
―商売女と違うのよ!
―教会にもちゃんと行くんだから
―教会?!
―要するにかわいい女!
―いやぁ 話を聞いてると我々の理想的な女性らしいな
―ギャハハッハhhh!?
「男を喜ばす」というと下世話になりがちですが、ユカにとってはそれだけではありませんでした。もちろんベッドの上もその中には含まれてはいますが、彼女がベッドを降りて見つけ出そうとしたものが「喜び」だったのかもしれません。
ちょっと前まで、そう、ネット文化が今ほど盛んになる以前には、年末年始の深夜放送は映画ばかりでした。また、古い日本映画を放送する番組もあって、私自身、わりと古い邦画で有名なものは、忘れていても観ているつもりではありました。しかし、この映画の名前を知ったのはここ数年のことでした。何かのきっかけでこの映画に偶然たどり着き、あらすじを知って、邦画でこういう題材を扱えたのであろうかと興味を持ちました。なぜなら、まるでフランスのコメディそのものであったからなのです。
主演の加賀まりこは和製ブリジット・バルドーと呼ばれ、非常に個性豊かで、美しく、愛らしく、昭和の現代女優を象徴する存在であったと言えるでしょう。彼女の野菊のような顔立ちが、一度微笑むと、まるでバラの花が綻(ほころ)ぶかのように変わる様子が、とても刺激的で、その瞬間を待ち望むかのように、私も見入っていたような記憶があります。
この映画が公開された1964年は、東京オリンピックが開催されました。戦後も19年が経過し、焼け野原の東京はひとまずの復興を見ます。その象徴が東京タワーであり、東京オリンピックでありました。また、新聞にはマッカーサーの回顧録が掲載され、被占領国の色調は薄まりつつありました。
そんな時代背景の中で、この映画、ユカの単なる都合のいい女からの卒業という映画では済まされない感があります。
ともあれ、日本映画を改めて見直したこの映画、皆さんもぜひご覧ください。
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