バルジ大作戦(Buttle Of The Bulge '65)

 60年代から70年代にかけて、プラモデルは玩具店の王者でした。バリエーションも多く、ゼンマイ仕掛けの自動車などのように玩具的性格を持つものもありましたし、多数の細かい部品があり、完成すれば芸術品といえるようなものもありました。そのプラモデルの花形の一つに戦車がありました。中世の騎士を思わせる鉄の塊は、少年たちの心をとらえ、電池で動くものから、精巧に再現するものまで、やはりバリエーションは多彩でした。

 

 さて今回のお題、「バルジ大作戦」は、戦車が大活躍する戦争スペクタクル映画です。ノルマンジー上陸作戦に成功し戦勝ムードに浮かれる連合国軍、背水の陣として起死回生を図るヒトラーのドイツ軍。明らかに、前半は士気高揚するドイツ軍の映画といえるでしょう。 ノルマンジー上陸作戦の後、戦場を再び陸上戦に移した第二次世界大戦は、平然とベルリン陥落へとたどり着いたような印象がありますが、映画「遠すぎた橋」などでもわかるように、ドイツ軍の猛反抗もあったわけで、決して安易な道のりではなかったようです。テレビ放送の二時間枠番組で、3時間近いこの番組を放送するには、当然ながら二回に跨らなくてはなりませんでした。前編だけを観るなら、誰もがドイツ軍映画と思ったのではないでしょうか。


 人種差別、侵略、弱者の切り捨てを是とするナチスの政策には一欠けらの賛同もしたいとは思いません。しかし、絶望を目前にしながらも、諦めることなく人智を尽くして取り組むさまは、尊い試みであると感じないわけにはいかないでしょう。SS(ナチス親衛隊)による捕虜虐殺を作戦本部に対して非難するシーンなど、前半においてはへスラー大佐の好感度は上昇つづけます。ドイツ軍にもかかる良識の府は存在したのだと感じられる場面もありました。後に知った逸話ですが、映画の製作過程でドイツ軍が美化されているとして、懸命に編集し直したという話があったそうです。アメリカ映画ですから、悪役ドイツ軍で十分なのですが、いいところはいいところとして表現してしまったということは、この映画の製作者の公正さの現れの一つといえるかもしれません。

 

 そして、後編では明らかに前編とは違うもう一つの素顔が現れてきます。ドイツ軍戦車隊指揮官のへスラー大佐とその給仕兵コンラッド伍長、この二人のやり取りの中に、この映画に込められた本当のメッセージが浮き彫りにされていきます。

 

 

Our column has made the farthest advance.
We have outrun the other panzers.
The eyes of Germany are on us.
The Fuehrer himself will decorate me.
We have done it, Conrad.
We have done it.

 

Then I was wrong.
We have won the war.

 

No.

 

You mean we have lost?

 

No.

 

I don’t understand.
If we have not won and we have not lost
then what’s happening?

 

The best thing possible is happening.
The war will go on.

 

For how long?

 

Indefinitely.
On and on and on.

 

But it must come to an end.

 

 

You’re fool, Conrad.
Those of us who understood knew in 1941, we could never win.

 

You mean, colonel, for three years,
we have been fighting without any hope of victory?

 

There are many kinds of victory.
For the German army to survive, for us to remain in uniform.
…....that is our victory.
Conrad, the world is not going to get rid of us after all.

 

But when do we go home?

 

This is our home.

 

And my sons?  When do I see them?
What will become of them?

They will become German soldiers,
and you will be proud of Them. 

我々の縦隊が最前線だ

 

我々が他の戦車より抜きんでている

ドイツ中の目は我々に向いている

総統は私に勲章をくれるだろう

 

やったぞ コンラッド
我々はやったんだ

 

それではわかりません
戦争に勝ったんですか?

 

いいや

 

それでは負けたのですか?

 

いいや 

 

わかりません 
勝ったのでもなければ、負けたのでもない、
それでは何が起こったのですか?

 

最も好ましい事になった

 

戦争が続けられる

 

どのぐらいですか?

 

無期限に

すっと、すっとだ

 

でも、終わりが来るべきではないのですか?

 

お前は馬鹿か コンラッド
1941年から判っていたことなんだ、我々が勝てないことは

 

あなたは、大佐、三年もの間、

勝つ望みのない闘いをしてきたと言いたいのですか?

 

勝ちにもいろいろある
ドイツ陸軍が存続すること、我々が軍服を着ていられること
それも我々の勝利だ
コンラッド、決して世界は我々をお払い箱にはしないだろう。

 

ならいつうちに帰れるんですか?

 

ここが家だ


息子たちには いつ会えるんですか?

 息子たちはどうなるんですか?

 

息子たちはドイツ軍人になる
おまえはそれを誇りに思えばいい 


 

 連合国軍の浮かれているのと立場は正反対ですが、戦争継続に浮かれるへスラー大佐です。やがてコンラッド伍長は初めて自分の意思を明らかにします。

 

 

 

I would like to be transferred to other duties, sir.  

 

What is the matter with you?

 

Don’t ask me, sir.
Just transfer me.

 

For combat duty?


Yes, sir.

 

You want to fight?

Very admirable, but why?

 

Personal reasons, sir.

 

Personal reasons.

Personal reasons?

What the devil are you trying to say?


It’s the reight of every German soldier to ask permission for a transfer to other duties. 
 

It is the right of every commanding officder to know the reason for transfer, and I want the truth.

 

The truth is that I’m a fool.
I believed in you.
But all you beleive in is the war.

 

You have the war.
You like the war.
And all I have are my sons, and I don’t want to lose them.

I’m not responsible for your children.

 

You are. you’d make them soldiers.

 

 

Yes. They will fight.

 

They will die.

 

If necessary.

 

Necessary for who?  For you?
 

You are not only a fool, you are a traitor.

 

And you are a murderer.

You would murder my sons.
You would murder my country.
you would murder the whole world to stay in that uniform.

 

 

It is only the memory of you as a friend that prevents me from having you court-martialed.
Get out.

よろしければ 他の任務に転属をしたいのですが、

 

何を言いたいんだ?


聞かないでください
転属したいだけです

 

戦闘任務へか?

 

はい、そうです

 

戦いたいのか?

それはいい心がけだが、なぜだ?

 

個人的理由です

 

個人的理由

個人的理由か

何故そんなことを言い出すんだ?

 
ドイツ軍人は他の任務への転属を
誓願する権利がありますよね  

 


上官は転属の理由を知る義務があるんだ

本音が知りたい

   

真実は私がばかだということです。
あなたを信じていました
でも、あなたは戦争しか信じていない。
あなたは戦争がしたい。
戦争が好きなんだ
そして、私は息子がすべてです。私はそれを失いたくはない。

.
お前の子供にまで、私の責任はない。
そうです。でもあなたは彼らを軍人にすると仰った。

.
そうだ、彼らは戦うのだ

 
彼らに死ねと

 

必要ならそうだ

 

誰のために必要なんですか? あなたですか? 

お前はバカだけでなく、反逆者だ



なら、あなたは人殺しだ。
私の息子を殺し
私の国も殺す
軍服を着ているために全世界だって殺すんでしょう

 

 

軍法会議にかけることは容赦しておく、

友達だったからな。
出ていけ。


 

 そして、友人としてのコンラッド曹長(映画途中で昇進しました)を失ったへスラー大佐は、とりつかれたように戦闘にのめりこんでいきます。ここにきて、ドイツ軍とりわけへスラー大佐と連合国軍の目的は、はっきりとその袂を分かちます。へスラーは戦争の継続を望み、連合国軍とコンラッドは戦争の終わりを目的としていたのです。ここに反戦映画としての一面を覗き見られるかもしれませんね。

 

 始めるよりも、終わらせるのが大変なのが、戦争であるということを訴えているように思われます。

 

 ちょっと前には、見るチャンスが少ない映画でしたが、今はレンタルビデオ店でも借りられるようになりました。「戦争」という言葉が、軽くなり始めている昨今、再考の材料としてもご覧になってみてはいかがでしょうか。

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コメント: 2
  • #1

    (日曜日, 31 3月 2013 19:05)

    記念パピコ

    >始めるよりも、終わらせるのが大変なのが、戦争
    >「戦争」という言葉が、軽くなり始めている

    同感。

  • #2

    tadasane-sakamaki (月曜日, 01 4月 2013 07:11)

    コメントありがとうございます!
     記録映画でもないのにこれだけの戦車が走り回る姿を、CGもなかった時代に再現したのは、驚くべき快挙ではありますし、スペクタクルとしても圧巻です。DVDを観ると、上映のまえに序曲演奏が流れ、本編が終ると終曲演奏が流れます。まるで、バレエ公演や演劇公演のようです。私の想像でしかないのですが、当時の映画鑑賞というのは、時間つぶしの娯楽というだけではなく、ある意味芸術鑑賞といった性格もあったのかもしれませんね。

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