プリズナーNo.6(The Prisoner '67 英国)

 私の幼少期に、謎の海外ドラマがありました。NHKが放送していましたプリズナーNo6 です。当時かなりの人気番組ではあったようで、結構、再放送されていたようです。私はその再放送のころに知ったのだと思いますが、本編はほとんど見ていません、いや、見られなかったというべきでしょうね。夜11時以降の放送だったようで、小学校も低学年の私には起きていることができなかったのです。

 

 昼間の番組紹介のコーナーで1分ほどの予告編を放送していたのをみて、かっこいいと思えたんですね。家族は見ていたようですが、私にその内容を話してはくれませんでした。ま、もし仮に話されても、幼少期の私には理解できなかったでしょう。

 何度目かの、再放送が土曜日に放送されていたのに必死に食らいついて起きていましたが、睡魔のうつろいの中でのテレビ鑑賞では、とても内容の深さの理解には到達できませんでした。そして、このドラマは、まるでトラウマのように、私の明確な不明のひとつとして、私の中に刻み込まれていったのでした。

 

 ロンドンの街を疾走するスーパーセブン(ロータス)。当時のF-1マシンのようなこのスポーツカーに乗る紳士は、外務省の事務所の一室で、荒々しく文句を並べたてて、辞職の訴えを行います。外務省を後にした彼は自宅に帰り、旅支度をはじめます。どうやら、彼は外務省の諜報部員であったようです。鞄のつめこみを終えたところで、彼の部屋の鍵穴から、白い煙がふきだしてきます。それはなんと催眠ガスだったのです。そして、次に目覚めたときには、ウサギの穴に落ちたアリスよろしく、不思議の国の囚われ人になっていたのでした。

 

 放送されていた当時は、東西冷戦の真っただ中にありましたので、多くの秘密を抱える諜報員が辞職するとなれば、その身柄を放置できるわけがありません。当局が取り得る方法は、彼を諜報戦の担い手として復活させるか、彼の知る情報が相手側に渡らないように、相手側との接触を完全に遮断するかの二つに絞られるのです。当局側の説得と主人公の拒絶の戦いがこの物語といえるでしょう。
 
 この村で彼は、No.6(ナンバーシックス)というコードネームで呼ばれます。視点によっては、管理社会を抽象するものという見方もできるでしょうし、ネガティブに捉えるならば、どんな社会体制であっても、人間社会には自由などありえないという意味にもなるかもしれません。 

 主人公No.6を演じるのはパトリック・マクグーハン。過去の人ではありますが、60年代では、テレビ俳優としては最もギャラの高い俳優だったそうです。そして、彼の支配をもくろむNO.2は、エピソードごとに俳優が変わります。名優が続々と登場してきます。そんな二人のやりとりがこのドラマの見どころのひとつでもあります。

 

 また、ファッションから感じられる、新しさが不思議な魅力のひとつです。時代的に考えると、古臭くて当たり前なはずですが、伝統に裏打ちされたとでも申しましょうか、とても新鮮な感じなのです。
 
 最後に、社会における人間関係の問題の本質は、今も昔もそう変わりもないということに気づかされます。このドラマで登場する裏工作は、実体験とまではいかなくても、「まさか」と驚くほどのことでないのが、むしろ恐ろしく感じるところです!

 
 もしあなたが諜報部員の仕事を辞職するつもりではないとしても、大いに楽しめるサスペンスドラマです!

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