Chariots of Fire(炎のランナー\'81 英)

 2012オリンピック・ロンドン大会も開幕しましたということで、オリンピックネタの映画をひとつ取り上げてみたいと思います。 

 Chariots of Fire(炎のランナー/’81英)です。 舞台は今からさかのぼること88年の1924年、第8回パリ大会です。陸上競技の短距離といえば、いまでもトラック競技の花形ですが、この作品の主役の二人は100mと400mの金メダリストです。

 

Harold Maurice Abrahams
Harold Maurice Abrahams

 100mのハロルド・モーリス・エイブラハムス(Harold Maurice Abrahams:1899~1978)は、ユダヤ人であるが故に差別をされています。さらにプロコーチを雇ったために、アマチュアリズムに反すると、パッシングも受けています。アマチュア規定というものは、1980年代頃まで存在し続け、日本でも元プロ選手の指導を受けてはいけないなどという閉鎖的なものでした。本来のアマチュア精神は「身分や職業を問わず、同じルールによって公正な競技をおこなう」というものだったはずです。しかし、当時のイギリスでも、船員職の人間の競技参加を認めない規制があったり、民族差別が存在したのは事実です。本来のオリンピック精神が成立するのは、二度の大戦を経てからだったといえるでしょう。

 私は、学生時代、保健体育の授業で、過去のアマチュア精神を擁護する教授の授業を受けました。そして、「アマチュア規定について述べよ」という試験問題に対し、アマチュアリズムのプロスポーツ排除の誤りを真っ向から展開し、教授の意思に反論しました。それにもかかわらず、「優」の採点をもらって、勝利の美酒を味わったことを今でも憶えています。

 400mのエリック・リデル (Eric Henry Liddell:1902~1945)は宣教師で宗教上の安息日・日曜日には競技に参加しませんでした。もともと100mのライバルとして、競い合っていた二人でしたが、本大会の100m予選が日曜であったため、ライバル対決は実現しませんでした。英国王室からも国家への忠誠の証として参加するように勧められます。しかし、彼は信仰を重んじました。そして、チームメイトの辞退によって、400mに出場し、優勝します。その後、彼は宣教師として、中国へ渡り、満州事変の最中、日本軍の捕虜となり、収容所で病死します。そのため、公式大会での二人の雌雄を決する対決は実現しませんでした。

Eric Henry Liddell
Eric Henry Liddell

 この映画は何と言ってもヴァンゲリスのテーマ音楽でしょう。米国アカデミー賞で4部門の受賞、英国アカデミー賞で3部門の受賞をしていますが、とうぜんながら、ヴァンゲリスはどちらでも作曲賞を受賞しています。


 この映画の放映された時代は、映画の新作公開となると、テレビもラジオもそればっかりを宣伝し、音楽番組さえ、そのテーマを扱いました。それで、映画を観る前に、プログラムなみの知識は誰もが得ていたといえるでしょう。私はこのヴァンゲリスのテーマと短距離走という点から、100mを十秒で走る感覚をリアルに実感させてくれるものと期待していました。しかし、実際には当時のイギリスの光と影を現わしたものでした。社会派の作品としてみれば、よい映画だったのですが、当時、実存主義真っ直中にいた私の期待には応えてくれませんでした。

 映画の舞台をを時代的に振り返ると、その後もユダヤ人の差別はヨーロッパ中に浸透し続け、ナチス・ドイツのホロコーストにおよび、イスラエル建国によってひとまずの決着を見るに至ります。でも、この映画の中には、のちに総てのスポーツの主役になっていく、黒人選手は登場しません。そう見ると、思想が高く存在しても、それが実現されるのには時間がかかるということを感じないではいられません。

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コメント: 1
  • #1

    Juicer Review (日曜日, 05 5月 2013 18:15)

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