Hammett (ハメット) ’82 映画

Hammett
Hammett

 サミュエル・ダシール・ハメット(Samuel Dashiel Hammett:1894/5/27~1961/1/10)は、「マルタの鷹」、「血の収穫」などの著者で、ハードポイルド・スタイルを確立した作家の一人です。彼はサム・スペードやコンチネンタル・オブなどの探偵が登場する作品を多く残していますが、彼自身も探偵を行っていた時代があり、その頃の実体験を基に作品を残したといわれています(実体験故に発表できなかったものもありそうです)。写真の通りものすごくダンディーな人で、彼の作品ではハンフリー・ボガードがよく主演していましたが、俳優よりも原作者の方がかっこいいというねじれ(?)現象があったようです。

Frederic Forrestの横顔が本人そっくり

   この映画は彼が、肺結核故に探偵社を辞め、小説を書き始めたころのことを描いたものです。探偵上がりのミステリー作家というのは、日本にも少なくなくて、志茂田景樹氏や、貴志祐介氏もそうだったようです。「事実は小説より奇なり」といいますが、面白い小説というものは、案外、実話なのかもしれません。この「ハメット」のストーリーは一応、フィクションで、ジョー・ゴアズという人の原作です。

 

 

 さて、製作スタッフですが、『都会のアリス』『まわり道』『さすらい』でドイツ映画界の寵児となったヴィム・ヴェンダースが監督、『ゴッドファーザー』のフランシス・フォード・コッポラが製作総指揮、『冷戦交換ゲーム』でアメリカ探偵作家クラブ賞を受賞した小説家のロス・トーマスが脚本、『タワーリング・インフェルノ』でアカデミー撮影賞を受賞したジョセフ・バイロックが撮影、『007』シリーズを手がけたジョン・バリーが音楽と、大変豪華な布陣で製作された作品です。そして、ダンディーだったハメット本人に及ばないまでも、よく似ているフレデリック・フォレストが主演しています。

 

 

 何と言っても音楽が圧巻です。 世の中のはざまで、どうしようもなく起きてしまった事件のやるせなさを、まるでむせび泣くようなこのメロディーは、それだけでもうすでにハードボイルドです。グラスの中でバーボンに浮かぶ氷の音がよく似合います。

 

 私とこの映画との出会いは、ある深夜の映画番組がきっかけでした。80年代、まだ、DVDはなく、カセットテープのビデオが主流で、レンタルならまだしも、マスタービデオを買おうとしたら、一万円は当たり前でした。みんなテレビの録画で好きな映画をコレクションするのに必死で、ビデオデッキのコマーシャルカッターなどの機能を使いましたが、マスターテープのようにはなりません。そんなニーズに応えようとしたのがその番組、「ミッドナイト・アートシアター」(フジTV)でした。この番組は深夜の放送で、映画が始まるとその途中では、CMが一度も入らないというものでした。前後に結構良い解説が入るので、それも視聴者の楽しみの内にあり、その解説と映画の間のCMはすごく長かったのを覚えています。CMを見せるのが民放の商売のはずですが、時はまさにバブル真っ盛り。芸術のために金を出すのが「粋」という時代だったのでしょう。

 この映画の解説は内藤陳でした。彼はもともとコメディアンでしたが、そのキレのいい語り口はまるで軽快な活弁士のようで、ハードボイルドの息詰まるドキドキ感をダイレクトに伝えてくれていました。内藤陳は日本冒険小説協会の会長で、「読まずに死ねるか」というハードポイルド小説を紹介する本も出していました。彼は残念ながら昨年の末にお亡くなりになりました。

心からご冥福をお祈りいたします
心からご冥福をお祈りいたします

 この映画はそれほどのヒットには至りませんでした。バブルの時代に、こういった裏道を覗き見るような映画はそぐわなかったのでしょう。千利休の「わびさび」と太閤・秀吉の黄金茶室とiいったところかもしれませんね。

 

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