消費増税に物申す

 消費税の増額を、政府与党が言い始めてしばらくが過ぎた。どうも消費税の経済的効果の考察をないがしろにする中で、単に手っ取り早い税収であるという理由から選択された政策である印象が強い。原因と結果というものを考慮せずに、行われる手段は必ず同様なしっぺ返しで終息するものである。政治風潮としては、ヨーロッパでの消費税率を比較対象として、現在の消費税率を上げてもいいものという言い回しが多いが、ギリシャをはじめとするヨーロッパの経済的沈滞を顧みると、その説得力は弱いといわざるを得ない。

 

 消費税というものの性格を考えてみたい。

① 所得税に比べ、徴収の増減が少ない。所得税は不景気で収入が減る場合、つまり減収や失業などが直接的に反映するが、消費税は最低限のラインで変わらない。

 

② 所得税として課税できない年金などによる、雑所得を主とする国民からの税収が可能になる。それゆえ、高齢化社会をむかえる日本には不可避なものとされる。この論拠が、日本における消費税登場の論拠となった。

 

③ 消費税は逆累進課税である。つまり、貯蓄率の低い者ほど、所得に比した課税率が上がるということである。たとえば、月給20万円の人が一月の生活(消費)をして、残金がなかったとする。その場合の収入に対する納税率は現在なら5%となる(収入20万に対し、税額1万円)。そして、月給50万円の人が同額の生活(消費)をして、30万円の残金が出た場合の収入に対する納税率は2%となる(収入50万円に対し、税額1万円)

 この逆進性を裏付ける論拠として、福祉サービスがあげられている。つまり、低収入の人の方が、生活保護などの福祉サービスを受ける可能性が高いというのである。しかし、介護保険や医療保険などについては、基本的には税収を財源にしてはいないため、これらの論理が当てはまるのは非常に一部であるといえるだろう。基本的人権を守るために国家という組織が存在するという、国民主権論が薄らいでいるように感じるのは私だけだろうか。昔、「貧乏人は麦を食え」といった内閣総理大臣いたが、彼の経済政策は結果的に国民の平均所得を2倍にした。しかし、今回は何が未来に待っているのだろうか。

 

 消費税を上げるということは簡単に考えるならば、その税率分だけ、物の値段が値上がりするということになるのだ。デフレの真っただ中、価格破壊を進めざるを得ない中で、突然の一律の値上げというのはどういうことが起きるのだろうか。煙草に例をとれば明らかである。今では煙草は高級嗜好品と成りあがり、喫煙率を下げることにさえなり、煙草の生産者には大きな試練となっていることは明らかである。同様なことが、すべての業種において発生することを考えると、スパイラルの角度がどんどん急になっていくのは明白である。

 

 それでは有識者に耳を傾けてみたい。

 

野口悠紀雄(経済学者)の見解

 日本の財政状況は極めて深刻であるので、消費税だけで財政再建をすることは困難である。消費税を10%に挙げたとしても、10年ほどで国内での国債消化は行き詰ることになる。

 

ポール・クルーグマン(経済学者)の見解 

 不景気である只中に、増税を行えば、デフレ・スパイラルを加速させる。消費増税は財政拡張(雇用増を目的とした歳出の拡大)を行った後ですべきである。1998年の契機の落ち込みのきっかけは前年の消費税にある。経済がよくなったときに消費増税することには賛成である。

 2014年に8%、2015年に10%の消費税引き上げはタイミングが悪すぎる。いずれあげなければならないが、この時期に消費税を上げたら、消費は落ち込み、経済の悪化は目に見えている。他国でショックが起きたときにはかなりきつく影響が波及する。

 世界中の先進国の国債・借金問題は経済が成長すれば、それを返すことができる。イギリスがかつて成長していた時代に大量の借金を抱えていたという事実を誰も語ろうとしない。成長のための政策が求められている。 

 

森本卓郎(経済アナリスト)の見解 

 景気の悪い時に消費税を上げてはならないというのは、経済政策の基本だ。増税よりも先行して取り組みべきなのが、デフレ脱却による自然増収だ。このまま経済成長もせず、歳出削減のための改革も先送りにすれば、底に穴の開いたバケツに税金をつぎ込むことになり、財政赤字が増大し、再び増税への道を歩まざるを得なくなる。 

 

竹中平蔵の見解

(経済学者、元金融担当大臣、元経済財政政策担当大臣、元総務大臣) 

 このまま消費税案にのれば、日本は「低福祉・重税国家」となる。財政再策の目標は、日本の名目経済成長率('10年は1,1%,'11年は-1.9%)34%にあげることである。

 

高橋洋一(経済学者)の見解 

 現在の日本の財政状況に比べれば、イギリスのナポレオン戦争直後と第2次世界大戦直後における財政状態の方が、明らかにひどいものであった。当時のイギリスの負債は、ネットの負債(国の総負債から総資産を引いた値)においてGDP比で250%前後であった。しかし、2012年現在、日本のネットの負債はGDP比で70%ほどでしかない。

 スウェーデンにおいては、すぐれたマクロ経済運営によって高い経済成長率(名目経済成長率2%、インフレ率2)を実現させている。財政再建のためには、経済がデフレから脱する必要がある。増税策が功をなすのは、急激なインフレに対してである。経済の過熱に対して、「冷や水をかける」というのが増税である。 

 

浅田統一郎(経済学者)の見解 

 日本の国際累積問題の解決策は、デフレ不況からの脱却であり、消費税の増税ではない。

 

 有識者の見解の多くは、有効的経済政策による突破口なしに、増税は有効ではないという点で口をそろえる。お金を集めればいいということではないlのである。そのお金を何に役立てるのかが明確に打ち出されなくては意味がないし、説得力もない。政府並びに省庁がいかに節約をしたからといって、それが増税の根拠になるわけではないのである。経済成長を引き出すためにある政策があり、それを実行するために資金が必要であるという説得力が皆無なのだ。まるで、多額の借金があり、さらなる借金ができないので、やむなく臓器売却をして、返済にあて切り抜けようとしているようにしか見えないのである。多くの国民が資格の取得などのスキルアップによって活路を見出そうとしているのに比べ、何と無策なことであろうか。

 

 昭和5年、浜口内閣(内閣総理大臣・浜口雄幸、大蔵大臣・井上準之助)は金解禁(国際マーケットへの参入)へ向けて、緊縮財政を選択した。濱口や井上が金解禁や財政再建とともに重要視していたのは、産業の構造改革であった。明治時代以来の政府(官僚・軍部)と政商・財閥のもたれ合いの上に発達を遂げた日本の産業の国際競争力は、決して強いものとは言えなかった。特に、第1次世界大戦後の不況の長期化は、こうした日本経済の悪い体質にあると、濱口や井上は考えた。金解禁によるデフレと財政緊縮によって一時的に経済状況が悪化しても、問題企業の整理と経営合理化による国際競争力の向上は進み、金本位制が持つ通貨価値と為替相場の安定機能や国際収支の均衡機能が発揮されて、景気は確実に回復するはずであると考えたのである。しかし、アメリカの恐慌は日本国内にも影響を及ぼし、デフレはさらに進行し、輸出産業は円高によって、国際競争力を失い不振に陥る。そして、浜口雄幸と井上準之助は凶弾に倒れ、軍部は暴走(満州事変・上海事変)し、太平洋戦争へと 突入していく。

 

 しかしながら、この金解禁に先立つ、政府省庁による財政削減は、現代よりも堅実に行われ、結果を別にしても、政治としてはしっかりとした結果を見据えた政策であったのは確かである。そして、現代の我々はこの政治的経験を踏まえたうえで、現代の政治を見据える必要があるのではないだろうか。

                              了

このブログに掲載されたものすべての転載、複写をお断りいたします。

最近の記事