夏目友人帳

 

「ちいさな頃から、時々変なものを見た。それはおそらく妖怪と呼ばれるものだ」

 

 主人公・夏目貴志は幼少のころからあやかし(妖怪)の類を見ることができます。彼は両親を早くに失っており、親類を頼ってこれまで生きてきました。また、この能力のために、里親となった人たちに気味悪がられ、里親を転々としました。見えない者たちからすれば、彼は虚言癖の変な子供として疎まれてきたのです。やがて、彼はあやかしの存在が見えることを隠すようになっていきます。そして、彼は祖母・夏目レイコの遺品『友人帳』を譲り受けます。

 

 友人帳、それは、高い妖力をもつレイコが、多くの妖怪と様々な力比べをして勝ったときに妖怪の名前を書き込だものです。これは単なる交遊録などという、生やさしいものではなく、主従関係を結ぶ誓約書のようなものです。この友人帳に名を連ねたあやかしはその所有者に従わなくてはなりません。それが燃やされれば、死んでしまいます。人間社会での孤独感をはらすかのように戦っていた祖母・夏目レイコ、対戦したあやかしは必ずしも尋常な勝負をしたとは限らず、彼女の有様に同情しながら「さみしくなったら呼ぶんだよ」と友人帳に名を連ねたものもいたようです。

 

 貴志の里親は幾度も変りましたが、ようやく家族の温もりを感じさせてくれる里親に出合います。しかし、その地は祖母・レイコが友人帳を作った里でもあったのです。友人帳は妖怪を束ねようとする野心的妖怪の狙うものともなり、貴志は妖怪に狙われることになりますが、レイコを慕っていた大妖怪・マダラと出会い、貴志は祖母・レイコの存在を知り、友人帳のいきさつを理解します。マダラも最初は友人帳を付け狙うものでしたが、貴志によって封印を解かれたことから、貴志が死んだら友人帳を譲り受ける約束の上で、三毛猫の姿になって、彼の用心棒を務めることになります。時折、貴志とマダラはけんかもしますが、貴志の妖力も決して弱くはないので、雌雄を決するようなことにはなりません。ただ、貴志が争いを好まないため、その隙に乗ずる妖怪たちは少なくありません。そんなときは用心棒・マダラが活躍します。

 

 

  ここに出てくる妖怪たちは、非常にいにしえの社会を継続しているように思われます。強いものが絶対的存在となり、文字通りの弱肉強食が存在しますが、その反面、その殺伐とした定めとバランスをとるかのように、温かい優しさが漂っています。怒りや憎しみから離れることができた妖怪たちは、穏やかに存在することを望んでいるかのようにも見えます。そうして思ってみていると、妖怪たちは人間ではありませんが、単に個性豊かな存在という風にみることができます。そうなると人間社会の風刺として見ることも可能かもしれません。

 音楽の使い方が、とても和みます。人間関係に疲れている方、ぜひ、ご覧になってください。自分の呼吸がゆっくりになっていくことを実感するはずです。

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