99 Luftballons (ロックバルーンは99)/'83

 この歌は西ドイツ(当時のドイツにはベルリンの壁があり、東と西に分かれていました)のロックバンド"NENA"によって演奏されたものです。’83年に発表され、’84年にビルボード誌(アメリカ)で第2位になりました。ドイツのポップスとしては数少ない世界的大ヒットです。日本の「上を向いて歩こう」といったところでしょうか。

 私の学生時代の第二外国語がドイツ語だったので、これを機会に勉強しようと、LPレコードを買い行きました。ところが、日本での発売はなされておらず、日本名も未定のままで予約したのを覚えています。あの頃の洋盤の訳詞は結構いい加減で、今回初めて正しい理解ができたような気がします。ネットで訳詞を探し、辞書を引いてやっと訳詞にたどり着きました。どうもゲーテの決まり文句などを取り入れているそうで、上級者には面白い歌ではあるようです。あれだけ勉強したのにドイツ語は、私の中にほとんど残っていません。やはり、ヨーロッパは遠いところにあるのですね。

 この歌がはやった80年代前半というのは、世界的に核廃絶運動が流行した時代でもありました。その背景には、'79年のスリーマイル島メルトダウン事件、SALTⅡ(第二次戦略兵器制限交渉)の調印と無効、日本では'83年に「高速増殖炉もんじゅ」の着工などがあり、核に対する関心が世界的に高まった時だったといえるでしょう。核技術者の中から、核廃絶を訴える人たちもあらわれ、世論も自ら判断しようという気運が高まっていました。

 この歌の歌詞が戦争の愚かしさを表現したものだったためか、世界はこの歌を支持しました。

 この歌はドイツ語なので、先に日本語訳を見ていただきましょう。

 

私に時間をくれるなら

あなたのために歌ってあげるよ

水平線へ行った99個の風船の歌をね

あなたはほんとにかんがえてる?

じゃ歌ってあげる

99の風船の歌を

何がどうしてどうなったかをね

 

 

99の風船が地平線へむかって浮かんでた

UFOだ、なんて誰かが言ったから

将軍は飛行中隊で追跡させたよ

警告するためにね

でも99の風船が地平線にあっただけだったんだ

 

99のジェット戦闘機は

カーク艦長みたいな

いずれも偉大な軍人だった

巨大な花火が上がったとたん

隣のやつが攻撃されたと勘違いして

地平線の風船めがけて撃ちまくったんだ

 

99人の大臣はね

まるで火種とガソリンみたいで

策略だと思い込んだら

その妄想を膨らませ

力を集め、戦争をやりたがってた

99の風船のせいでそうなったと

そうなったと考えてるの?

 

99年の戦争は

一人の勝者もいなかった

大臣もいないし

戦闘機もない

今日

廃墟と化した世界を見ながら

歩いていると

風船をみつけたの

あなたと思って飛ばしてあげたよ

 

これすごいですよ! 是非是非ご覧ください!

ネーナ・ケルナーの前で行われた少年少女のパフォーマンス!


 

 

 寓話的な反戦歌というところでしょうか。

 被害はそれほどでもありませんでしたが、スリーマイル島の事故によって、核の管理の難しさを人類は痛感していたはずでした。核の抑止力よりもその管理の難しさを訴え、偶発的事故による被害や、政治的意図のない戦争の勃発の可能性から、核廃絶を訴える声は存在していましたが、政治は聞く耳をもっていませんでした。

 

 

戦略爆撃機 B-1
戦略爆撃機 B-1

 STATⅡ(Strategic Arms Limitation talks:第二次戦略兵器制限交渉1979年)でアメリカ合衆国とソビエト連邦はその削減へ向けた調印を行いましたが、合衆国上院は、ソ連のアフガン侵攻に対する抗議の意味で批准することを拒みました。よってこの軍縮条約は無効となってしまいました。

 直接的には関係ないのですが、数年後にはチェルノブィリ原発の大爆発は起こりました。そして、ソビエト連邦崩壊により冷戦は終了したはずなのですが、核兵器は危ないおもちゃよろしく、新興国にまで拡散してしまっています。こうしてみれば、福島第一の原発事故は決して寝耳に水ではなかったはずなのです。他国での事件を人類の教訓とできない技術は果たして優秀といえるのでしょうか!

 

 

Hast du etwas Zeit für mich,

dann singe ich ein Lied für dich

von 99 Luftballons

auf ihrem Weg zum Horizont.

Denkst du vielleicht grad' an mich,

dann singe ich ein Lied für dich

von 99 Luftballons

und dass so was von so was kommt.

 

99 Luftballons

auf ihrem Weg zum Horizont

hielt man für Ufos aus dem All,

darum schickte ein General

'ne Fliegerstaffel hinterher.

Alarm zu geben, wenn' s so wär'.

Dabei war'n dort am Horizont

Nur 99 Luftballons.

 

99 Düsenflieger,

jeder war ein großer Krieger,

hielten sich für Käptn Kirk,

das gab ein großes Feuerwerk.

Die Nachbarn haben nichts gerafft

und fühlten sich gleich angemacht.

Dabei schoss man am Horizontauf

auf 99 Luftballons.

 

99 Kriegsminister;

Streichholz und Benzinkanister,

hielten sich für schlaue Leute,

witterten schon fette Beute.

Riefen Krieg und wollten Macht.

Mann, wer hätte das gedacht,

dass es einmal soweit kommt

wegen 99 Luftballons?

Nachgesang (wie Vorgesang,):

 

99 Jahre Krieg

ließen keinen Platz für Sieger.

Kriegsminister gibt' s nicht mehr,

und auch keine Düsenflieger.

Heute zieh' ich meine Runden,

seh' die Welt in Trümmern liegen.

Hab'nen Luftballon gefunden,

denk an dich und lass ihn fliegen.

ich seh die Welt in Trümmern liegen,

ich Hab n Luftballon gefunden

ich denk an dich und lass ihn Fliegen 

  この歌が流行して三十年たちました。ドイツではまだこの歌が歌われているようです。その結果が、原発のない先進国を生み出したといえるのかもしれません。

 

最後の風船は飛ばされるのでしょうか?

 

 

それとも

 

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コメント: 17
  • #1

    通りすがりです。 (木曜日, 21 11月 2013 14:32)

     リズムの良い懐かしい歌で、その当時はラジオで良く聞きました。急に気になりだしてネットで検索して、こちらを訪問しました。ネット上でいくつかの和訳がありましたが、こちらの和訳が一番です。
     ちょっとした勘違いで、もしくは何か理由となりそうなものをみつけて、それを口実に戦争をしたがる。イラク戦争のようです。なんか、このところの日本がそれに近づいているような、きな臭さを政治に感じます。
     もっと、明るい未来のビジョンを示せるリーダーに登場してほしいと思うこのごろです。
     突然の訪問、失礼いたしました。

  • #2

    tadasane-sakamaki (木曜日, 21 11月 2013 21:12)

    コメントありがとうございます!
    もしかすると、戦争という選択肢は、政治ゲームのリセットボタンなのかもしれませんね。だから、うまくいかなかったら、風船でさえもボタンを押す理由になってしまうんでしょう。どうせゲームをしているのなら、上のステージに登ってほしいものです。
    また、遊びにいらしてくださいね!

  • #3

    ヒゲジイニシ (金曜日, 12 12月 2014 21:53)

    再放送のNHK語学講座まいにちドイツ語初級編でのテーマソングの意味が気になり調べて見ましたら、こんな素敵なサイトがヒットしました。けっこう厳しい内容でしたね。今からの日本が心配です。ドイツ語も日本語も良く分かり、すっきりしました。ありがとうございました。

  • #4

    youus (木曜日, 24 3月 2016 10:05)

    今日2016. 3.24 朝のラジオでこの曲が流れていました。ネーナは56才になったとインターFMのDJが紹介していました!
    自分も昔この曲をよく聴いていたので、YouTubeで見ていて歌詞が気になったので このホームページに来ました。日本は反戦っていうより 違う方向に向かっているなぁ〜ってふと思って この頃を懐かしく思い出しました。(=´∀`)人(´∀`=)
    いつか 私のブログで和訳を紹介させてもらうかもしれませんが その時はご了承ください

  • #5

    ぺけ (土曜日, 23 4月 2016 12:06)

    自分は、CMで流れてるのを聞いて、そのハミングをアプリ使って調べて出会えました。

    歌詞ありがとうございます。
    99個の風船があっただけなのに花火を勘違いしてぶっぱなして、
    戦争が起きた理由は風船のせいなの?
    なんてところが、とても素敵というか、皮肉というか。

    感動しました。良い曲ですね。

  • #6

    Line (月曜日, 09 5月 2016 19:52)

    先程ラジオでオンエアされて、歌詞を検索してる内にコチラに辿り付きました。
    歌詞の概要は何となく存じておりましたが、貴殿の訳詞と解説を拝見し感銘を新たにしたと申しますか、、、

    歌詞冒頭の99に一つ足りない風船は、事の成り行き総てを傍観する以外に術を持たなかったんですね。
    最期に漸く解き放たれた彼(彼女?)も、やはり「あなた」の事を考えていたに違いなくて、、?
    これは物凄く切ない歌でもあるんですね。

    改めて、有難う御座いました。

  • #7

    坂巻惟実 (土曜日, 14 1月 2017 06:59)

    皆さん! 沢山のアクセスありがとうございます! この記事はこのブログの冠記事となっています! 私の拙い訳詞がこれほどの反響を生むとは思いもよりませんでした。洋楽に対して、歌詞にこだわらない日本人の特徴とも言うんでしょうか、訳詞云々に関してあまり反応のない現実があります。けれども、けっこう深い意味を込めているものが少なくないのも、洋楽の特徴でもあります。これほどのコメントまでいただきまして、本当にありがとうございます!

  • #8

    しったか (日曜日, 01 10月 2017 16:24)

    LuftballonsはLuftwaffeのもじりだとかピーターバラカンが解説していた

  • #9

    坂巻惟実 (日曜日, 12 11月 2017 18:26)

    コメントありがとうございます!
    なるほど
    「風船(Luftballons)」は
    「ドイツ空軍(Luftwaffe)」
    であったということですね!
    バラカンさんらしいコメントですね!

  • #10

    れいん (金曜日, 08 12月 2017 13:43)

    通りすがりに記事を拝読しました
    ちょうど同じようにドイツ語を勉強して、同じようにネーナに出会ったひともいるのだなと。
    NHKホールの来日コンサートも行きました。

    30年あまりたったいま、結局世界は平和でもなく、非核化もされず、
    何かしようと思った時に、ネーナのあの歌を歌おうと。
    ここの記事を読んで、そう思いました。
    力をもらった気がします。ありがとうございました�!

  • #11

    坂巻惟実 (月曜日, 05 3月 2018 22:17)

    コメントありがとうございます!
    この曲なんとカラオケにあるんですよ
    きちんとドイツ語の字幕が出ます
    お試しあれ!

  • #12

    猫星にぼし (土曜日, 21 4月 2018 10:33)

    数年前にドイツ語講座のオープニングで聞いてカッコいいなと思い最近youtubeで動画を見てこの雰囲気良いなあと思って歌詞が気になって検索したら、このサイトにたどり着きました。雰囲気だけでなく歌詞までここまでカッコいいとは!どうしても重くなりがちなテーマをここまでさらりとカッコよくポップに表現していて最高ですね!99を歌いこなせるようドイツ語を頑張りたいなぁ~。神訳ありがとうございます。

  • #13

    トミ (土曜日, 07 7月 2018 12:38)

    最近、ドイツ語を学び始め、この歌のことを思い出して検索したところ、こちらのサイトに辿りつきました!
    恥ずかしながら、当時は、若くて、愚かで、この歌の歌詞の内容について、考えることはありませんでした。
    こんな素晴らしい歌詞だったなんて!!
    解説、大変勉強になりました。ありがとうございます。

  • #14

    ゴマワサビドレッシング最高! (月曜日, 20 8月 2018 21:28)

    ノリの良い曲で好きな曲でした。歌詞にこんな深い意味があるとは!歌詞の意味を踏まえてじっくり聴いてみます。ありがとうございました�

  • #15

    坂巻惟実(筆者です) (木曜日, 04 10月 2018 22:07)

    「神訳」とまでのお褒めの言葉、本当にありがとうございます!
    このページのアクセス数は、2018年10月1日現在で、3万アクセスを突破しました。感激の極みです! 来ていただいたみなさん一人ひとりに感謝いたします!

  • #16

    通りすがりのFM狂 (木曜日, 11 10月 2018 23:10)

    初めまして。関西に住む者です。
    今日、大阪にあるFM COCOLOという局でたまたまこの曲が流れました。
    久々に流れたことや、確か反戦ソングだったことを思い出したので
    どんな歌詞やったっけ? でも独語わからんし・・・と思いつつ
    こちらのサイトを見つけて「こういう内容やったんか!」と納得しました。
    99個の風船を未確認飛行物体と勘違いして戦闘機を出動させた・・・という
    今ではアホらしくて考えられませんが、当時からチカラが有り余ってる
    軍隊を何所かに出動させ、戦争をおっ始める・・・という政治家の考え方は
    今も昔も変わらん、ということを痛烈に皮肉っている内容やったんですね。
    当時はコドモやったし気にも掛けてへんかったけど、少しスッキリしました。
    おおきにです。(^_^)

  • #17

    坂巻惟実 (土曜日, 13 10月 2018 15:27)

    コメントありがとうございます!
    ロックとはいえ、もう30年以上まえの唄を子供たちが歌っているということも、今の日本ではちょっと有り得ない感じがしますね。世界的にもそれほどは無いでしょうけどね。そういう意味ではこの歌と同世代であったことに感謝したいと思います。

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